夏の夜、隣で寝ていた息子が「パパ、起きて」と体をゆさぶってきた。
またか…。
私はため息をついた。
小学生の息子は、夜中にトイレにいきたくなると、いつも私を起こす。
「夜のトイレはお化けが出るから、1人でいくのは嫌だ」という。
まったく、高学年にもなってトイレが怖いとは情けない。
トイレの前で大あくびをしながら、私は苦笑した。
翌日、祖母の家に泊りがけで遊びにいった。
夜には縁側で花火を楽しみ、みんなでスイカを食べた。
スイカをむさぼる息子に、「また夜中にトイレにいきたくなっても知らないぞ!」と注意したが、「大丈夫だよ」と涼しい顔。
田舎の古い家だから、トイレは土間の裏にある。
大人でも、夜中に1人で用をたしていると、身震いするような雰囲気がただよっている。
実際、自分も小さいころ、1人でトイレにいけず、親に叱られたっけ…。
やれやれ、今夜もまた、息子に起こされそうだ。
その日の真夜中、隣で寝ていた息子がむくりと起き出した。
「トイレか?」と声をかけようとしたが、息子は1人で土間のほうにすたすた歩いていく。
ねぼけているのかな…と首をひねっていると、息子がすっきりした様子で戻ってきた。
「1人でトイレにいって、怖くなかったのか?」と聞くと、息子はきょとんとした顔つきで、こう答えた。
「だって、ここのトイレは、家とは違うでしょ」